歯ぎしりをする人のほうが、むしろ体は健康!


歯ぎしりすることで、人はストレスを回避しています。ある研究によれば、歯ぎしりを
している人のほうがストンス性胃潰瘍が少ないともいわれています。また、噛みじめてい
るわけですから、いびきをかけません。いびきをかくというのは、舌が喉におっこちて、息がしにくくなっているのです。ひどくなると睡眠時無呼吸症候群になります^.歯ぎし‥
している人は睡眠時無呼吸症候群の裏返しの状態なのです。
問題は、質のよい歯ぎしりをしているかどうかということです。聖書にはしばしば歯ぎ
しりに関する記載が見られます。代表的なものを見てみましょう。
「この国の子らは外のやみに追い出され、そこで泣き叫んだり、歯がみをしたりするであ
ろう」(マタイ8¨12)
「人の子はその使たちをつかわし、 つまずきとなるものと不法を行う者とを、ことごとく
御国からとり集めて、炉の火に投げ入れさせるであろう。そこでは泣き叫んだり、歯がみ
をしたりするであろう」(マタイー3¨4.‐42)
「そこで、王はそばの者たちに言った、ア」の者の手足をしばって、外の暗やみにほうり
出せ。そこで泣き叫んだり、歯がみをしたりするであろうL(マタイ22¨・3)
「あなたがたは、アブラハム、イサク、ヤコブやすべての預言者たちが、神の国にはいっ
ているのに、自分たちは外に投げ出されることになれば、そこで泣き叫んだり、歯がみを
したりするであろう」人は少なくとt2000年以上前にわかっていたのです。
ですから、スポーツ選手でも野球、Flドライバー、ゴルフ選手などはよくマウスピー
スを入れています。ラグビーやボクシングのマウスピースと違い、怪我の予防ではなく、
ストレスでくいしばることで背筋力や集中力を上げるためにFlドライバーやゴルフ選手
はマウスピースをしているのです。そうです、マウスピースで理想的な「質のよいくいし
ばりができる顎の位置」にしているのです

頭痛、一肩こり、手のしびれ、耳鳴り……すべてかみ合わせが原因だった!


さて、ビジネスマンにとってバリバリ仕事をするのを邪魔する体調不良の多くは、病気
とまではいえない、一肩こりや頭痛などでしょう。いわゆる「未病」といわれるものです。
もちろん、パソコン作業のし過ぎや徹夜なども関係しているのですが、仕事のストレスか
らくる「くいしばり」が原因であることも多いのです。
「わたしはくいしばりなどしていません―」という声が聞こえそうですが、医学的には、
人間は必ずくいしばりをしています。これを専門用語で「ブラキシズム」といい、3つに
分類されます。
①いわゆるくいしばり¨クレンチング
②歯ぎしり¨グライとアィング
③カチカチ細かく噛むのを繰り返す¨タッピング
人間は必ずこの①~③を無意識にしています。それによって、ストレスを回避している

たとえば、これを読んでいる読者のみなさん、今、あなたは歯と歯が当たっています
か? もし、当たっていれば、それが①のクレンチングです。ストレスのない状態では、
歯と歯は当たらず、約1~2ミリの距離があります。唇は閉じていますが、噛んでいない
のが正常です。さあ、あなたはどうですか?
実は、ブラキシズムが、頭痛、一肩こり、手のしびれ、耳鳴りの原因になることがあり、
さらには日の痙攣やコンタクトレンズが落ちやすいなどの日のトラブルの原因にもなって
いるのです。

口元を変えて人生が変わった人たち ケース4


Dさんは、ある大手の会社の経営者で歯の手入れもとてもよく、子供のころに矯正もし
て、 一見なにも問題ないようでした。しかし、見かけ上の歯並びと医学的な顎の位置がず
れており、そのため歯ぎしりが強く(歯ぎしりで不正な歯の位置を治そうとする本能が子
供にありますが、それが残っているようでした)、顎関節症で右の耳がこもったような症
状が出ています。
顎関節の近くには鼓索神経と聴神経が通っており、かみ合わせと聴力とは因果関係があ
ります。顎関節症の何割かの患者さんは、耳が聞こえないことで耳鼻科を受診し、突発性
難聴の病名を与えられステロイドで治療されてしまっていることがあります。これはスト
ンスとかみ合わせの治療で治ることもよくありますが、 一方で不適切な歯科治療により難

一著になっ´ヽ、 工手っこともあります
Dさんは、歯ぎしりによってせっかく治した詰め物が取れたり、歯と歯の摩耗で重の蓄一
が欠けて虫歯と同じような状態になったりすることを繰り返し、歯科治療のやり直しに苛
まれていました。正しい顎の位置に歯を配列し、歯のないところにはインプラントをする
ことでこのような悪循環から抜け出すことができました。難聴はまだ治っていませんが、
進行することなく寛解して、今まで以上に経営に集中できるようになりました。

以上でご紹介した事例のように、心と体、そしてかみ合わせと顔貌はつながっています。
「歯の一本くらい、なくたっていいだろう。たくさんあるんだから……」という価値観が
疾患を作るのです。さあ、あなたのお顔をもう一度鏡で見てみましょう

口元を変えて人生が変わった人たち ケース3


Cさんは、奥歯のない60代後半の男性です。ご本人はそれでとくに困ったこともなく、
何十年もそのまま放置して今日に至っています。
基質、性質、性格の分類からいつても、おおらかで細かいことを気にせず、健康につい
てもあまり考えないタイプです。当然、歯の治療もなおざりです。体も鈍感なので、一肩こ
りや咀噛障害などは当然あるのですが、まつたく気がついていません。片方の一肩を触ると
「イタタタ……」となり、わたしが「これが肩こりというのですよ」と言っても、「でも別
に困っていないから」というありさまです。
それだけなら問題ないのですが、この方の奥様が「睡眠時無呼吸症候群で、眠っている
間、息をしていないんです。どうにかなりませんか?」と尋ねてきました。現在、この病

気は、 一部の歯科医師がかみ合わせの治療で解決していますが、 一般的には耳鼻科で
シーパップ、ネーザルシーパップという装置を使い、鼻につけたマス
クに加圧された空気を送り込むことで喉を広げて息ができるようにする治療をします。
これはよい方法なのですが、 一生これをしないと死んでしまう可能性があります。歯科
的に治療する場合は、顎の位置を変え、気道が通りやすい位置をマウスピースで探して、
それをはめて寝ます。睡眠中の呼吸数や酸素分圧を測定して、治療成果が出ることを確認
し、さらに舌を支える筋肉のトレーニングもします。
こうすると、機械なしでも普通の睡眠がとれるようになります。そして、そのマウスピ
ースの位置と普段噛んでいる位置を合わせる矯正や歯並びの治療をします。Cさんは奥歯
がないので、インプラントでかみ合わせを造りました。
結果として、マウスピースもなしで普通に夜間呼吸できるようになり、咀唱筋が発達し
始め、若いころと同じような顔貌になり、首回りもすっきりとして若返りました。ご本人
の基質が「事なかれ主義」であったためにできた疾患です。今後、事なかれ主義で命を落
とす可能性があったことを認知してもらい、価値観が変わった自分を意識しつづけてもら
う必要があります。
Cさんが健康を取り戻しただけでなく、家族もCさんがいつ息をしなくなるかという不
安から解放されました。Cさんは家族の絆も手に入れたのです。

口元を変えて人生が変わった人たち ケース2

 

Bさんは当時13歳の中学生。お母さんから顔が歪んでいると言われ、わたしのもとに来
ました。Aさんと同じく、運動が音手で運動部などには入っていませんでした。本人はと

ても素直で協力的な子供だったので、矯正治療を開始することには抵抗がありませんでした。

問題は、どうして顔が歪んでしまったかです。Bさんはひどい猫背で、中学生なのに肩
こりがあり、悩んでいるようでした。お母さんと一緒にカウンセリングをしてみると、
「左下を向いて、抱き枕を抱いて寝ている」ことがわかりました。体を丸め、脚も曲げて
寝ているとのことです。まるで、猫が寒くて丸まっているようでした。
猫に「上を向いて布団をかけて寝なさい」と言っても無理なように、Bさんもそれは難
しいようだったので、まずは布団の下にタオルケットを階段状に積んで、丸まった状態で
も上を向いて寝られるようにベッドを改造しました。矯正が進むとともに顎の位置がまっ
すぐになり、猫背も治ってくると、徐々に上を向いて寝やすくなるので、タオルケットを
1枚ずつ抜いていきました。
矯正治療後は背筋がまっすぐになり、身長も高くなりました。体操部にも入部しました。
お顔もかなりまっすぐになり、とっても美人になりました。口もへの字から横一文字にな
り、笑うと、とてもよいスマイルができるようになったのです。


運動もするようになったので体力もつき、中学を卒業してからは別人のような人生にな
りました。この体を女性の平均寿命の80代後半まで使うとすれば、彼女は60年分の健康な
体と美貌を手に入れたことになります。

口元を変えて人生が変わった人たち1

 

さて、これまで顔が変わる理由とその方法について述べてきましたが、ここからは実践
です。本書はビジネスマンが生き生きとして仕事ができるようになることが目的ですから、
いくつかの事例を見ていくことにしましょう。

ケース1
Aさんは美大に通う女子大生。女優志望でもあり、美人なのですが、気が変わりやすく、気が変わりやすい性格のせいか、中学。高校を通じて部活をすることもなく、運動も苦
手なので、そのまま成人してしまいました。母親がわたしと知人であり、仕事の話からA
さんのことを相談され、われわれの診療所に来ました。
Aさんは一見非常にワガママな感じがあります。とにかく、痛いこと、怖いことが嫌い
で、歯科治療にもそのようなイメージを持っていました。
Aさんが一番気にしているのは、「顔が歪んでいること」です。美容外科や大学病院に
行ったのですが、どこでも「手術をして顎の骨を切って……」と言われたそうです。それ
以上の説明はまったく耳に入りません。なぜならば、痛いこと、怖いこと、めんどうくさ
いことが大嫌いなまま成人してしまったからです。でも、顔の歪みは治したいのです。
心の問題に目を向けない医師であれば、いわゆる「めんどうくさい患者!」で済ませて
しまうでしょう。でも、Aさんの価値観はすべて、今日まで育った環境、つまり仏教でい
う「縁」によって作られたものです。彼女が40、50歳、というのであれば、夫や子供、結
婚した相手の家柄などによって作られた大人の価値観=性格を持っているでしょうが、彼
女はまだ学生です。基質(もって生まれたもの)と性質(家庭環境など、おもに親の与え
た要因)がほとんどすべてです。
Aさんの母親の職業や価値観、家庭環境など、すべてわたしは知っていますし、なによ
り母親はわたしを信頼してAさんを来させているのですから、わたしは彼女の心からケア
する責任があります。
まず、望診してみると、体中が左右非対称です。姿勢も極めて悪く、顔色も悪く、とに
かくダルそうです。治療用のイスヘのすわり方も斜めで態度も悪いのです。間診しても、
人の悪口や親の悪口が多く、今日自分がこうなのはすべて人のせいだ、と言わんばかりで、
とても成人しているとは思えません。5歳児のようです。
このような場合、わたしは、言葉は20歳のレベルながら内容や文法は5歳児のレベルに
して間診します。すると、忙しく偉い母親に構ってもらえず、甘やかされて対人関係の成
長が5歳児程度で止まっていることがわかりました。
どうしてこのように全身が左右非対称になったか、そのことで腰椎や骨盤が歪み婦人科系の症状が出ていること、腰椎や頸椎の歪みから運動能力が劣っているために運動が苦手
で長続きしなかったこと、頸椎の位置不正で肩こりや顎関節症があることなどは、頭がい
いのですぐ理解できましたが、恐怖心や困難解決能力は5歳児程度なのです。5歳の子供
には、顎を切る手術を決断する能力はありません。彼女に決断力がないのは、まだ決断の
ための価値観を得る精神発達段階ではないからです。
そこで、マウスピースを使って顎の位置を正しくすることにしました。もともと、顔の
左右非対称を治して美人になりたいというのが彼女の願望ですから、これはすんなりと受
け入れてくれました。このときに、「怖いこと、痛いこと」が決してあってはいけません。
なぜならば、それがPTSDの原因の一つだからです。
マウスピースを作製しても、わたしが国の中に入れるのではなく、本人に渡して入れて
もらいます。すると、治療が痛くない、怖くないということがわかります。こうして、継
続する能力が生まれます。これだけで、彼女は恐怖心や困難解決能力に関しては中学生レ
ベルにまで瞬時に上がることができました。
1週間後、口が開きやすくなったこと、そして口元が左右対称になってきたことで、が
ぜんモチベーションが上がってきました。忍耐を継続することによって結果を出す訓練を
自分の力でできたのです。ここで、彼女は精神発育が高校生レベルにまで達したようです。
担当の衛生士に、ファッションや美に関して自分から話しかけるようになりました。そう
です。対人関係能力を得たのです。
結果として、手術はしませんでした。なぜなら、 マウスピースだけで彼女の納得した結
果が出たからです。われわれとしては、手術をして結果の永続性を与えたかったのですが
(マウスピースを外すと徐々に元にもどってしまいます)、またなにかのきっかけで考え方
は変わるでしょう。なぜならば、 一度上がった精神年齢は下がらないからです。 一度自転
車に乗れるようになったら、「乗れなくなりなさい」と言われてもできませんよね? 心
と脳の発育とは、そのようなものなのです。

美容外科で無理やり治してもばれる! 自然な顔貌は歯科治療から


美容外科で無理やり治してもばれる! 自然な顔貌は歯科治療から

今まで述べてきたように、赤ちゃんが生まれてすぐおっぱいを命がけで吸う努力と、育
てた人の価値観、そして地域の言語や常識や周囲の人の影響、これらからくるその人の感
情や価値観によってできた脳の状態が顔相となって出るのです。ですから、「40歳を超え
たら男は自分の顔に責任を持て」という言葉が医学的にも正しいのは、繰り返し本書で述
べている通りです。

さて、「では、もう悪い顔になったからあきらめろと言うのですか? 去三す三一,や環撹
が悪いという過去は変えられません!」と言われそうです。でも実は、過去は変えられる
のです。「え― そんなバカな― ドラえもんじゃあるまいし、過去なんて変えられな
い!」と言われそうですが、そうでもないのです。
生まれた日や場所など物理的なことはもちろん変えられないのですが、物事はすべて物
理的なことの解釈です。たとえば、「石につまずいて転んだ、だから石が悪い=」なのか、
それとも「石につまずいて転んで、痛みがわかった。これからは転んだ人の痛みを軽減で
きるように、医師になろう」……。ダジャンではありません。そのように過去の出来事は
すべて、解釈によっていくらでも変えられるのです。
よく、親から虐待を受けてPTSDになり、自分の子供に虐待をしてしまうという残念
な事例がありますが、それに対しては、まさに過去の解釈を変えるという治療をします。
今までの価値観を変えるのです。ごく簡単な例でお話ししましょう。


わたしの知人のE子さんは、とにかく怖がり。彼とデイズニーランドに行っても、絶対
にビッグサンダーマウンテンなどのジェットコースター系など乗りませんし、ホーンテッ
ドマンションですら嫌がります。なぜなら、「怖いことを避ければ、怖い日に遭わないで
済む」という価値観があるからです。それは、子供のときに兄に無理矢理連れられて入っ
たお化け屋敷がトラウマだったのです。
「怖いことを避ければ、怖い日に遭わないで済む」考えは、人間関係から食べ物にまで及
びます。人見知りするのはもちろん、居酒屋に行っても、食べたことのないメニューは絶
対に注文できず、好きなモノしか頼めません。常に「怖いことを避ける」行動にとらわれ
ているのです。それが、どんどん怖いものを作ります。
そして、その価値観が顔に出て、「人と目を合わさない」「下を向いて話す」「運動部な
どの疲れる組織に所属しない」という顔になります。すると、本章の冒頭で述べたように、
見た日でその人がバレてしまうのです。バンる確率は9割です。
E子さんは、この性格を変えようとしません。だから親友からは、「引っ込み思案を治
しなさい」「もっと積極的に行動しないと」などとおせっかいを言われます。さて、どう

心療内科では過去に兄とお化け屋敷に行ったことが原因とされ、行動療法で怖いものに
近づいたり、夜眠るときに入眠薬をもらったり、安定剤をもらうこともあったそうですが、
そんなことで本当に治るのでしょうか?
実は、ここで過去を変えてしまえばいいのです― 兄とお化け屋敷に行ったのは厳然た
る事実ですが、「兄のせいで怖がりになった」を「兄が一緒にお化け屋敷に入ったのは、
妹をかわいがりたかったからだ。妹から頼られ、兄らしさを見せたい子供心だった」に置
き換えるのです。仲のいい2人ですから、いじめようと思ったのではないでしょう。
すでに触れたように、その日、その空間、そしてその家族の空気感などで、そのときの
イメージが決まり、その繰り返しがその人の価値観として育まれます。その前提を変えて
しまおう、と自分で決めてしまうのです。そうすると、その人の人生は変わります。
わたしの知人に、ある有名な高僧がおります。とても優しい、澄んだ泉のようなお坊さ
んですが、その人ですら、1人だけ相容れない人がいたそうです。ずっとよくない関係が
続いたそうですが、自分からその人に優しい言葉をかけると、その人も受け入れてくれた
そうです。つまり、その人に対する苦手意識があったために、相手もその苦手意識を感じ
て悪い関係になっていた、ただそれだけのことだったのです。

どうですか? ヽ不ガテイブな思想や価値観も、あなたの顔を作っているのです。そして、
過去の物理的な事実は変えられませんが、解釈なんて何とでも変えられるのです。つまり、
過去を変えてしまうのです。

わたしも今まで、歯科治療によって何百人何千人という人の顔を変えてきました。もち
ろん、全員が大成功でスマイル満点というわけではありません。物理的に歯を削ったり、
かみ合わせを変えて、「医学的には正常値になりました。でも患者さんの心は変わりませ
ん」では意味がないのです。ですから、まずどうしてそのような状態になったのかを診る
のです。望診や視診、そして間診によって確かめていくのです。
たとえば、虫歯一つでもそうです。物理的に小さな虫歯があったとします。これは厳然

とした、物理的な事実ですが、一痛くなったら困るから、小さいうちいう価値観もあれば、「めんどくさいから、痛くなったら治療に行こう一という〓恒三L
あります。また、「大きな虫歯になってお金がかかる前に安い治療費で治してしまえ一と
いう価値観もありますし「歯の一本くらいなくても生活には困らない」という人もいるで
しょう。その人その人によって、数年後にレントダンで映し出される影はまったく異なり
ます。
もっといえば、優秀な歯科医師はレントゲン一枚で、その人の恐怖観、健康観、経済観、
人生観がわかってしまうのです。まずそこをクリアしないと、「患者さんの欲しいモノ」
=「その患者さんの価値観における利益」を与えることはできません。ですから、優秀な
歯科医師は、精神科の先生や占い師、人相学・顔相学の先生のようなことを常にして、先
回りしてその人の過去の解釈を変え、変えたことを実感させる作業=本当に最初の治療行
為によってそれを証明するのです。それができれば、その人の人生は変わります。すると、
これが顔に徐々に表れ、その人が変わっていくのです。つまり、心の治療なくして顔の変
化はありません。


美容外科の先生は、顔を手術で変えることによって心を変えられます。われわれは、先
に心を変えることをしますので、患者さんにとってはまどろっこしくて、ありがた迷惑だ
と思います。でも、心が変わっているからこそ、心が脳を変え、脳が指令した筋肉によっ
て骨の位置が変わり、矯正やかみ合わせの治療によって少しお手伝いをするだけで、自然
なスマイルができるのです―

左右対称の顔がもたらす生きるチカラ


赤ちゃんがおなかの中にいるとき、もっと正確に述べると受精してから24~35曰くらい
で顔面が形成されます。問題がなければ、完全に対称な胚として発生します。そして、生
まれてきてお母さんのおっぱいを吸うことで、日、鼻、咽喉頭が発育し、それにつれて目
や耳の位置が決まるのです。
そう、赤ちゃんが命がけの作業でおっぱいを吸うこと=吸啜によって、顎顔面が出来
上がるのです。赤ちゃんを育てた人ならわかると思いますが、母乳を吸っているときの赤
ちゃんは、顔を真っ赤にして真剣に命がけで吸っています。なぜならば、母乳を飲まない
と死ぬからです。この吸啜によって、鼻腔(鼻の穴の空洞)、副鼻腔(上顎洞、箭骨洞、
前頭洞)、国腔、咽頭腔などが形成されます。これらは、すべて
①呼吸……息を吸って吐き、酸素を吸い込んでエネルギーを代謝すること

②咀唱……物を噛み砕くこと
③哄下……噛み砕いたものを飲み込むこと
という、人間にとって、いや動物にとって絶対になくてはならない超基本的かつ最も重要
な機能を形成することです。だから赤ちゃんは命がけでこの機能を作る作業をしているの
です。
つまり、このときに安易に哺乳瓶など吸啜しやすいものを使うと、呼吸。咀疇。熙下と
いった機能が低下し、成長や発育どころか睡眠や運動の能力が低下し、さらに形成不全が
大きくなれば、口呼吸することでアレルギーなども起こしやすくなってしまうのです。
ですから、繰り返しますが、赤ちゃんは一生の生きる機能を本能的に得るために「命が
けで真剣に」おっぱいを吸うのです。昔は、おっぱいの出が悪い場合、あるいは貴族や豪
族などでは、よりおっぱいの性能がいい女性=赤ちゃんの呼吸と咀唱と噸下を育む乳を持
つ女性を「乳母」として利用し、子供の発育を促していました。そのようにして、われわ
れ人類は生きながらえてきたのです。
そして、その生後0日から乳離れするときまでに、呼吸と咀唱と噛下の機能の成果=子

供の顔ができます。ですから、子供の顔を見れば、われわれ顔ら専両家でここ顔面を専門的に診られる歯科医師は、この基本的能力がわかるわけですcまた、サイエン
スの観点から、生きる力を解剖学の計測値として示し、経験的あるいは分類学的に診た人
相学や顔相学では、顔のパーツの位置や大きさ、あるいは動物などにたとえて示します。
そのため、物を見るスタートラインは違っても、見ている結果はさほど違わないわけです。

鼻、とくに鼻腔が大きければ酸素の流入量を増やせますし、フィルター機能も大きくで
きますから、感染にも強くなります。口や副鼻腔が大きければ、声は大きくなります。た
とえば、副鼻腔の大きな動物としてイルカやクジラの仲間があります。イルカの出す超音
波のソナー音は副鼻腔にある一対の脂肪の塊の間に空気を通過させて発せられる打撃音で
す。彼らは音域も音量も大きく超音波を出すことで、数キロから数千キロまで交信できる
といわれています。
当然のことながら、顔は左右対称のほうがいいに決まっています。野生動物で左右の顔
面が非対称の動物なんていません。ですから、顔面は弥勒菩薩のような顔がよく、健康で
栄養効率もいいわけですから運勢もよくなりますcそのような顔を人相学や顔相学でOC
のタイプ、と規定していくわけです。
禅宗の祖で、すぐれた思想家であった達磨大師が脳と相の結びつきに着目してから千数
百年、その達磨大師の教えを受け継ぐ嘉祥流観相学会導主の藤木相元先生が顔相の第一人
者です。テレビ等でも有名で、わたしもお世話になっている藤本先生の御著書などをぜひ
ご覧ください。歯科医学的にも達磨大師の教えはつながるのです。

タバコは歯をボロボロにする


最近、喫煙者の肩身が狭い。

レストラン、空港、新幹線、オフィスビルなどいたるところ禁煙になっている。自宅でもタバコを吸わせてもらえず、ホタル族という言葉まで登場した。ベランダに出てタバコを吸うので、外から見るとホタルのように見えるということだが、冬の夜ならさぞ寒いだろうと気の毒になる。

喫煙場所が減ったのと、相次ぐタバコの値上げなどで、このところ喫煙率は減っている。未だに喫煙率が高いのは中高年の男性だが、最近は若い女性も増えているという。

私も以前はタバコを吸っていた。毎日六〇本というヘビースモーカーだった。食後の一服は至福の瞬間であったし、難しい手術や仕事終わりの一服は、高揚した気分を抑えてくれる鎮静剤の効果も兼ねていた。しかし、三九歳でタバコと縁を切った。

別にきっかけや強い意志があったわけではないのだが、しいて言えば診療の最中に、タバコの害を頻繁に目にしたためかもしれない。

最近は喫煙者本人もさることながら、パッシブ・スモーク(受動喫煙)が問題になっている。しかしそれ以上に、タバコを吸っている本人の国の中は、直接タバコが人っているのだから、その実害は計り知れない

タバコにはニコチンやタール以外に約四〇〇0種の成分が含まれているといわれ、何がどう作用するのかわかっていないところがある。その得体の知れない成分が、日の中に入っているのである。

はっきり言えるのは、タバコを吸うと毛細血管が収縮し血流が悪くなるということ。

また、タバコ一本につき、レモン一個分のビタミンCが失われるという。タバコを吸うと、降圧剤など一部の薬の薬効が減ったり、反対に促進される

タバコを吸っている妊婦は、早産の危険性が高まる。長年の喫煙によリニコチンやタールで日の粘液が過敏になり、歯ブラシを口の奥に入れると反射的に叶き出したくなり歯磨きがしっかりできない。長期の喫煙者は肺がんのリスクが高くなる、などなど、その悪影響を数え上げたらキリがない。

しかも、ニコチンの色素が沈着し、歯肉が黒っぽくなってくるので、見た日にも悪い。タバコによって歯肉が貧血を起こしたら、歯を支えている組織もダメになり、歯に悪影響が出るのも時間の問題である。

治療中、目の前で瀕死の状態になっている歯肉を何例も見たら、とてもタバコを吸い続けることはできない。だから、大事な歯を守るために、私は二〇年近く吸っていたタバコをやめたのだ。

禁煙してからも、タバコを吸っている夢を見てあわてて飛び起き、現実ではないことにほっと胸をなでおろしたということも何度もあった。こうした悪戦苦闘の末、ようやくタバコと縁を切ることができた。

食後の一服のために、人事な歯を失ってもいいのか、考えるまでもないだろう。


●タバコが歯周病の進行を促進する

大阪府が府内の事業所を対象に、喫煙と歯周病の関連について調査した。

それによると、タバコを吸っていない歯周病の人は、四五歳以上が多かったのに対して、喫煙者は三0歳以上で歯周病になっているという結果になった。このことから、タバコを吸っていると、比較的若い頃から歯周病が進行するということがわかったのである。

タバコは歯周病にも悪影響をおよぼしていた.

アメリカでは、全米一万三三二九人を対象に、喫煙と歯周病の関係を調べるNHANESⅢ調査が実施された.

それによると、歯周ポケットの深さが四ミリ以上で、歯と歯槽骨の結合部分の幅も四ミリ以上ある歯周病患者では、タバコを吸っている人の割合は吸わない人の四倍という結果になった。

しかも、吸う本数が増えるにつれて歯周病患者は増えていく。

一日三一本以上吸う人は、吸わない人に比べて実に六倍から八倍の割合で歯周病にかかっている。

タバコを吸っている人は歯周病になりやすく、その割合は吸っている本数に比例するというのである。

注目される結果は他にもある。

タバコを吸っている人が歯周病になると、歯槽骨の吸収がタバコを吸わない人に比べて大きいこと、歯周病菌が生息する深い歯周ポケットの数が多いこと、歯石が多いことなどの特徴があることがゎかった。

なぜ、タバコを吸うと歯槽骨の吸収が進むのか。

タバコは歯槽骨の中の、破骨細胞を活性化させる働きがある。これにより、骨芽細胞と破骨細胞のバランスが崩れ、骨が溶けて吸収されてしまうのである。だから、タバコを吸わない人よりも早く骨の吸収が進み、歯が抜けるリスクが高くなる。

またタバコに含まれるエコチンは、歯槽骨と歯を結びつける歯根膜を作っている線維芽細胞に作用して、粘着力と配列を妨げるということがゎかっている。

咀噛によって日々傷ついている歯根膜の修復能力を低下させて、歯と歯槽骨の結合を弱めてしまうのである。修復機能が低下すると、たとぇば抜歯したり、インプラント体の埋入などの治療を実施しても、治りにくくなる

また、第一章でも記述したが、タバコを吸うと、血管が収縮するのこれにより歯肉の毛細血管も収縮し循環が悪くなるので、歯周ポケットの酸素が少なくなり、嫌気性である歯周病菌が活動しやすくなる

さらに、歯周病菌への抵抗力が弱くなり、歯周ポケットが深くなる。このため、酸素不足がいっそう進み、歯周ポケットの中が汚れてきて、歯周病菌が増殖する

また、歯周病になると、歯肉が赤く腫れてきて、出血をするが、タバコを吸っているとこの初期症状が出にくくなるという。発見が遅れて症状を悪化させる危険性があるのだ

タバコによって歯肉の毛細血管の循環が悪くなるので、出血しにくくなることが確認されているc症状が出ることで、歯周病がわかるのに、こうした生体反応までがタバコによって抑制されてしまうので、気づいたときには重症ということになりかねない。

それでは、禁煙したら歯周病は改善するのだろうか。

全米調査では、禁煙して一一年以上経過すると確実にリスクが減っていくという結果が出ている。

一九五五年の歯周病発症率を一〇〇とすると、喫煙率が減った二000年には三一パーセントに低下した

歯周病と手を切るためには、まずタバコとの関係を絶つことから始めなければならないことをわかっていただけただろうか

 

糖尿病と歯周病の悪の相関関係


日本人の糖尿病患者はその予備軍も含めると、三二一0万人いるといわれる。糖尿病にはI型、Ⅱ型があり、日本人糖尿病患者の九〇パーセントがⅡ型糖尿病である。

Ⅱ型は、もともとはインスリンが正常に分泌されていたが、家族に糖尿病患者がいるといった遺伝的な素因に加え、食べすぎ、運動不足で肥満になり、ストレスがかかるなど生活習慣の影響でインスリンの分泌が不足し血糖値が上がる。このため、Ⅱ型糖尿病は生活習慣病といわれる。

糖尿病は、静かな病気である。

当初は国が渇き、多尿になるといった程度で、取り立てて痛いとか苦しいといった症状がないままに、深く静かに病状が進行する。

しかし気がついたときには、全身の血管がボロボロになって心臓病を併発したり、網膜剥離で失明したり、腎不全を起こしたり、あるいは血流障害で壊疸が起こるといった最悪の事態を迎える。糖尿病は侮れない病気なのだ。

糖尿病の人は歯周病になりやすく、進行も速いといわれるt歯肉から出血しやすく、炎症がなかなか治まらないという特徴がある。

糖尿病で血中糖度が高くなると、浸透圧の関係で唾液の量が減り、国の中が渇く。

歯の清浄作用や抗菌作用を担っている唾液が少ないと、当然日の中の細菌が増えるので歯周病になりやすいうえ、治りにくくなる。つまり、歯周病の治療をしっかりしていても、糖尿病の治療を行なわず血糖値が高いままなら、歯周病はなかなか改善しない。歯周病にとっては、糖尿病であるということが、大変なリスク要因なのだ。

一方で、歯周病が糖尿病の悪化に関与していることも報告されている。

前出の石川烈教授のグループの研究で、重度の歯周病にかかっている糖尿病患者を二年間観察したところ、糖尿病の治療を実施しても血糖コントロールがうまくいかなかったという結果になった。ところが、この患者に歯周病治療を行なったところ、インスリンの必要量が減って血糖コントロールが改善したという。

このことは、歯周病の炎症が、糖尿病の血糖コントロールに影響を与えているということを示している。

その理由として、歯周病の治療を実施することによって、炎症が治まり血中のサイトカインが減少し、木端の細胞のブドウ糖を取り込む状況が改善するので、血中のヘモグロビンAlC(血液中で結合したブドウ糖とヘモグロビンの過去三ヶ月の平均指数)の数値が減少し、血糖コントロールが改善するのではないかと考えられている。

歯周病と糖尿病は悪の相関関係なので、両方同時に治療しなければどちらの病状も回復しないということが明らかになった。

●糖尿病の合併症と歯周病の関係

糖尿病は長い時間をかけて、ゆっくりと症状が悪化していく。治療もしないまま、暴飲暴食を重ね肥満になり、運動不足にストレス、睡眠不足が続くと、あるときからやせてくる。

食べているのにやせてくるのと同時に、恐ろしい合併症が現われる

この糖尿病性合併症は、血管と神経がボロボロになったことが原因となって発生する。

大きな血管が障害を受けると動脈硬化が進み、心筋梗塞脳梗塞などの重大な病気の発生リスクが高まる。

小さい血管に障害が起きると、糖尿病性白内障や網膜症、腎臓障害などを引き起こす。

これを一暴づけるように、日本人の成人失明原因の第1位は糖尿病性網膜症によるものである。腎臓に障害が起きると、腎不全で人工透析を受ける必要があるが、人工透析の原因の第一はやはり糖尿病によるものである。

目や腎臓というまったく違った場所の障害でも、糖尿病という生活習慣病がその発端となっている

ところで、糖尿病と歯周病は、お互いがリスクファクターになっている。

歯肉は毛細血管がたくさん集まっている場所なので、糖尿病が原因で歯肉の毛細血管も障害を受けるとどうなるだろうか。

まず、歯肉の下の組織を通る血流が悪くなって炎症が起こり、歯の表面に付着している歯肉がはがれやすくなる.つまり、歯肉清がぼっかり口を開けた状態になり、細菌が入ってきやすくなる

さらに炎症が広がると、歯肉の下にある歯根膜線維細胞の中のコラーゲン線維が破壊されはじめる.バリアとなっていた歯肉部分の毛細血管から血液成分が染み出すことで、防御壁が壊れ、ますます歯周病に感染しやすくなるc歯肉の毛細血管が変性することで、歯肉への酸素や栄養素が行き届かなくなり、歯肉の組織は正常な働きを保てない

つまり、歯周病になると炎症が起きて血流が悪くなり、免疫細胞との戦闘が起こり、歯周組織は危険な状態にさらされるわけである。また、糖尿病の合併症としては、血行障害とともに神経障害も起こる。

末端の神経に障害が起きるので、たとえば燃え盛るストーブに足をつけても熱さも痛みも感じず、自分の足が焦げているにおいでようやくわかったという、笑えないような神経障害も現実に起こる。

こうした合併症が起こると、体の免疫機能が低下して、歯周病菌の繁殖力が増強する。

こうした血糖値の高い状態が続くと、たんばく質の糖化が始まり、全身の抵抗力が落ちてくるということも報告されている。これは歯肉の抵抗力を弱くすることにもつながり、いっそう歯周病に対する抵抗力も低下する。

こうして糖尿病の進行により、歯周病の症状が進行しやすくなり、しかも治りにくいということになるのである.

メタボリックシンドローム歯周病を促進する

生活習慣病につながるメタボリックシンドロームが話題になっている。

内臓脂肪の面積が一〇〇平方センチメートル以上ある人で、血圧、中性脂肪あるいはHDL(善玉コレステロール)、空腹時血糖のうち二つ以上の検査結果が基準値を上回っている場合、動脈硬化のリスクが高くなるメタボリックシンドロームと診断される。

正確にはCT検査で内臓脂肪の面積を調べる必要があるが、日安の判断基準としておへそ回りの数値が男性八五センチ以上、女性九0センチ以上あると内臓脂肪系の肥満の可能性が一局いとされている。

一日に肥満といっても、皮下脂肪タイプと内臓脂肪タイプに分かれる。

中高年男性の場合は、おなかだけがぼっこりと出る「リンゴ型肥満」が多い。このリンゴ型肥満こそ、内臓脂肪によるものである。女性の場合は、下半身を中心に脂肪がたまる「洋ナシ型」が多く、この場合は皮下脂肪タイプといえる

今回問題になっているメタボリックシンドロームは、代謝症候群といわれ、内臓肥満をべ―スに複合的な原因で生活習慣病を誘発するリスクが高くなる状態なのであるメタボリックシンドロームの判断基準のベースとなる内臓脂肪や肥満があると、歯周病にかかる率が高くなるという研究が発表された。

九州大学大学院歯学研究の斎藤俊行教授のグループは、 一九九八年に二〇歳から五九歳の二四一人を対象に、BMI値(体格指数¨身長〔m〕一.乗×体重で割りだす標準体重のこと)と歯周病の関係を調べたところ、肥満の人は歯周病にかかっている率が高いことを発表した

ちなみに、BMI値二五~二九・九が肥満度一、三〇~三四・九が肥満度二、二五~四〇 ・68が肥満度三と規定されている。

この研究は世界で初めて、太っている人と歯周病の関係を明らかにしたのだ。

BMI値が二〇未満の人の指数を一とすると、二〇から二四・九の人で歯周病になる割合が一・七倍に、BMI値が二五から二九・九の人で二・四倍、BMI値が三〇以上の場合は八・六倍にもなることがわかった。標準体重の人と比べると、太っているというだけで八倍以上も歯周病にかかるリスクが高くなる。

しかも体脂肪率が五パーセント上がるごとに、歯周病にかかるリスクが一・三倍に増加するという。

他の数値を加えて分析しても、太っている人、とりわけ内臓脂肪が多い人が歯周病にかかるリスクが高いという結果になったのである。

その後の研究で、この原因が脂肪細胞に関係していることがわかった。

脂肪細胞というと、千不ルギーを貯蔵しておく場所というイメージがある。たしかに、余ったエネルギーを貯蔵する場所ではあるのだが、現在はそれ以上の機能があることがわかっている。

特筆すべきは、脂肪細胞は生命維持に欠かせないホルモンなどを生み出す体内分泌器官であるということがゎかってきたことである。実証されたのは一九九四年、とつい最近である。

脂肪細胞からレプチンが分泌され、視床下部にある満腹中枢を刺激することで、食欲抑制とエネルギーの消費を増やすような働きをすることが発見された。食欲のコントロールをするレプチンが、まさか脂肪細胞から分泌されているとは驚きである

人間の体内には平均して二〇0億個から六〇〇億個の脂肪細胞があるが、食べ過ぎや運動不足によって余った脂肪が細胞の中に取り込まれ細胞が肥大化する。細胞自体が大きく膨れていくのである

東京医科歯科大学難治疾患研究所の小川佳宏教授の研究では、肥満によって脂肪細胞が巨大化するだけでなく、脂肪細胞の中に免疫細胞のマクロファージが入り込んで増殖し、炎症を起こすTNFlαなどの腫瘍壊死因子を全身に送り出すということが報告されている

これが増え過ぎると血管が詰まりやすくなり、ふたたびマクロファージが増え、脂肪細胞を活性化させるという悪循環になる。単に太って脂肪細胞が増えて大きくなっただけなのに、これだけの影響がある。

これ以外にも、アディポネクティンなどが分泌され、これらはアディポサイトカインと総称されている。これらは炎症を起こさせる物質で、メタボリックシンドロームの人の血液を検査すると、炎症を示す高感度CRPマーカーの数値が基準値よりも高くなっていることがわかる。

太って脂肪細胞が大きくなると、それだけで炎症を起こさせる物質が体内に大量に排出される。これが、歯周病にも悪影響を与える。

実は歯槽骨の吸収は、TNFlαによって引き起こされると考えられている。歯周病になると歯周組織のいたるところに炎症が起こり、炎症を起こさせる腫瘍壊死因子TNFlαが、破骨細胞を刺激して骨を壊し歯槽骨の吸収を引き起こす。

肥満者の脂肪組織からTNFlαが大量に分泌されていることが確認されており、これが歯槽骨吸収に影響を及ぼしているのではと見られている.

マウスの実験でも、肥満しているマウスは、LPS(菌体内毒素)の肝臓における感受性が強くなることが確認されている。このLPSの感受性が高くなると、肝臓に常在するマクロファージであるクッパー細胞の機能が低下するという。

つまり、太っているだけで、TNFlαの感受性が高くなり、マクロファージの働きが悪くなるのである。これと同じメカニズムで、歯周病が悪化すると考えられるわけである。

脂肪細胞から分泌されるPAI11は、血液の凝固を促進し、虚血性心疾患に関与することが知られている。血中にPAI11が増加すると歯周組織の毛細血管にも血液が流れにくくなるため、歯周病が進行する。

肥満とタバコは、多くの生活習慣病のリスク因子であるが、歯周病にとっても、大きなリスク因子になっていることがわかってきた。

メタボリックシンドロームというのは、太っているだけで身体が炎症を起こしている病気であるという考え方である。肥満という病気を思っている人は、歯周病にもかかりやすく症状が悪化しやすいのである。

アメリカでは「喫煙と肥満」は、自分をコントロールすることができない証明といわれている。たしかにのべつまくなしに食事をしていると、肥満になる確率が高くなるだけでなく、虫歯や歯周病のリスクも上昇する。体重コントロールも歯を守る一つの方法といえるかもしれない。

噛み合わせが不定愁訴の原因


腰痛や一肩こりに悩む人は多い。実感するのは、噛み合わせを調整するだけで、その不快な症状が解消する人がいかに多いかということだ。

たとえば右側の奥歯が抜けたままになっている人は、どういうわけか左の肩から背中にかけてひどくコリが出る

そこで、歯を入れて全体の噛み合わせを調整すると不思議なことに、長年の肩こりが解消したというケースは本当に多い。

一肩こりだけではない。イライラ、不安、頭痛、吐き気、やる気低下、気鬱といった不定愁訴も、歯の噛み合わせを調整しただけであっさりと解消することがある

人間は常に重力に対抗しながら立っている。人間の骨と関節の標本を見るとわかるのだが、多くの関節があるなかで左右に関節があるのは、顎関節と仙腸関節の二つだけである。

つまりこの二つの関節が、身体の中心線を保つ役割を担っているといっていい。

とりわけ、顎関節は頭蓋骨に近いところにあって重い頭を支え、頭頸部の筋肉と密接に関係していることから可動域も広いこ全身を動かすときには、バランスを取る役割として顎関節は重要な機能を果たしている。

これがずれてしまったら、頭頸部はもとより全身に影響が出るだろうことは容易に推察できる。

噛み合わせを調整して正常になると背骨がまっすぐになることで、重心が身体の中心にくるようになる。重い頭も重心線に乗ることで、身体の無用な緊張が解ける。筋肉が緊張することでコリや痛みが発生するが、全身の緊張が解けることでコリも解消されるという、いい連鎖が始まる。

噛み合わせといっても、 大幅にずれている人はまれで、ほとんどが紙一枚か二枚という、ごくわずかなずれである。

しかし、それが長年にわたって起こり、どこか一本の歯に過剰な負担をかけ、咀疇筋のアンバランスを引き起こす。

それが首の筋肉を引っ張ることになり、筋肉が異常に緊張し、コリを生じる。そのために、頭痛が起こり、背中の筋肉がはり、腰痛を引き起こすという具合に、悪影響は身体全体にまで広がっていく。

歯はごくごくわずかなずれでも、様々な関節、筋肉、リンバ系、体液系とその影響は伝わっていき、心身に多くの症状をもたらす。

目に見えないほどの歯のずれも、放置しておいてはいけないのはこのためである。

●歯軋りはストレスが原因か

現代人はほんとうに多くのストレスにさらされているようだ。先日、ある30代の女性患者がやってきた。

「寝ていたら、いきなリバキッと音がしたんです。あまりに大きな音だったので、飛び起きてしまいました」

レントゲンを撮ってみたところ、差し歯を被せている歯に縦に見事なヒビが入っている。

「起きているときには、あまリストレスを感じないと思っていたのですが、歯軋りで差し歯にヒビが入るなんて、寝ている間にストレスを発散していたのかもしれませんね」

この女性だけではない、最近は歯軋りによって差し歯が折れたり、差し歯にヒビが人ったということで来院される患者が増えている。

人間はたいていの人が、寝ている間に歯軋りをする。時間はせいぜい10分程度というところである。ところが中には30分以上も歯軋りをしているのではないかと思われる人もいる。これが歯のトラブルを引き起こす。

歯軋りは、上下の歯を合わせたままで横に動かす行為で、キシキシ、ギリギリと音が出る。

つまり、横方向への過重な負担がかかっているということだ。横方向に対してある程度耐えられるのは大歯だけで、他の歯は横ゆれにはかなり弱い。だからこそ、歯軋りの負担に耐えられずにヒビが入ったのだ。

この女性のケースだけでなく、歯軋りで差し歯が壊れるというのは、噛み合わせに問題があることが多い

「もしかすると、今まで差し歯が取れませんでしたか」

その女性に質問したところ、

「過去に三回も取れたことがあって、そのたびに近所の歯医者さんでつけてもらっていました」という。

これを聞いて、やはり原因が噛み合わせのずれだと確信した。

噛み合わせが正常ではないと、早期接触が起こる

すべての歯は、上下同時に合わさるように設計されているのに、どこかの歯だけが先に接触する場合がある.これが早期接触である。先に接触する歯があるために他の歯が遅れて接触するので、身体はなんとかこの状態を正常に戻したいと、歯をこすり合わせることで歯の高さを同じにして噛み合わせを調節する。

この早期接触が、歯軋りの原因になっていることも多い。

このように噛み合わせが悪いと、差し歯が外れやすくなり、それでも調節ができないと、折れたり、ヒビが入ったりするのだ

早めに噛み合わせの調整を行なえば、差し歯もそのままに使うことができるのに、本当に残念なケースもある。

ほんのわずかな噛み合わせのずれが、歯そのものをダメにすることがあるのを忘れないことも大切だ。


●奥歯がなくなると太る

俗に「早食いも芸のうち」といわれる。

忙しい現代人は、駅の立ち食いそばやファストフードのハンバーガーをものの三分で流し込み、次の仕事に駆けつける。その早業は芸と言えなくもないが、身体にとってはものすごい負担になる。

なにしろ、三分でそばを食べるということは、ほとんど噛まずに胃に流し込んでいるようなもので、これでは消化不良になって、健康を害しかねない。

元日本咀囀学会理事長で元神奈川歯科大学教授の齋藤滋氏の研究によると、現代人の咀疇回数はパン、スープ、 ハンバーグ、ポテトサラダの洋食の場合で一食当たり約六二0回といわれる。

昔の食事を復元したもので咀唱回数を調べてみると、時代を遡るごとに咀疇回数が上昇していることがわかったという。

江戸時代は一五〇〇回程度と現代の三倍、鎌倉時代では約二六〇0回、弥生時代にまで遡ると四000回も噛んでいたことになるという。弥生時代の主なメニューは、玄米、魚の干物、ノビル、くるみなどである。現代人は柔らかいものを食べるようになったので、噛む回数が激減しているということがわかる。

実は、奥歯がなくなるとやはり食事のスピードが速くなり、食事時間が短くなる。

奥歯がないと、食物をゆっくりすりつぶすことができず、前歯でがつがつ食べて飲み込むしかできないので、あっという間にかなり大量に食べてしまっている。

こうした食べ方が、太る原因なのだ。日本料理の伝統的な会席料理を考えてみよう。

会席料理は、先付け、お椀、お作り、焼き物、八寸、炊き合わせなど、季節の素材を使った料理が一品ずつ運ばれる。その美しい料理を日で楽しみ、味や香りを確かめ、歯でしっかりと食感を確かめながらゆっくりいただく。

「この素材は何だろう」「夏らしい器で涼しそうだ」フ」の料理なら、辛日の日本酒が合いそうだ」と考えたり、誰かとおしゃべりしながらゆっくり食べていると、どういうわけかおなかがいっぱいになってくる.

大量に食べているわけでないのにおなかがいっぱいになるということは、血糖値とかかわっている。

食欲は脳の視床下部にある満腹中枢と摂食中枢によってコントロールされており、体内からの信号によって、空腹や満腹を感じるような仕組みになっている。同時によく噛むことで、肝臓に蓄えられているグリコーゲンが血中にブドウ糖として放出され、消化吸収される前に脳内ブドウ糖の上昇も起こり、満腹中枢を作動させる。

通常血糖値は体内に食べ物が入ってから30分程度で上がるので、ゆっくり食べていると血液中の血糖値が上がり、大脳に指令が届き満腹感を感じる.だから、少しの量でも満腹を感じるので、食事の量を減らすことができる。

逆にラーメンは一気に食べ終わるので、血糖値が上がらないうちに大量の食事をしていることになる。

つまり、 一気食いをすると血糖値が上がらないままに、大量に食べてしまう。満腹感を感じたときには、本来必要なカロリー以上の量を食べてしまっていることになり、太るのだ。

しかも、ラーメンはほとんど噛まずに食べる。これも、満腹感を感じにくくする元凶だ。

食欲の調節には、血糖値のほかに、神経伝達物質「神経性ヒスタミン」がかかわっているということがわかってきた。神経性ヒスタミンという物質は、満腹感を感じさせるのにひじょうに重要な働きをするというのだ

ねずみを使った実験によると、よく噛んで食べることで神経性ヒスタミンの分泌量が増えることが明らかになっている。

つまり、ゆっくりと料理を楽しみながらよく噛んで食べていれば、肥満に悩み無理なダイエットをする必要もなくなる。

奥歯を失った人は、すりつぶすことができないので、常に前歯でがつがつと食べる、ラーメン状態が続いているということだ。

大量に食べていても、血糖値がなかなか上がらないので満腹感を感じるのが遅い。だから、太ってしまう。

大食いを自慢にしているタレントがいるが、彼らの食事風景を見ると本当に食べるのが速い。

一皿をあっという間に平らげて、次の料理に取り掛かっている.口元を見ると、ほとんど噛んでいないことがわかる。歯で噛むことで、食材の微妙な違いや旬の野菜が持つほのかな甘さなどがわかるのに、本当にもったいないと思う。

ちなみに、噛むという行為は子供時代の習慣で決まる。

子供の頃、二〇回以上噛むようにしつけられた人は、大人になってもよく噛んで食べるが、噛む習慣がない人はよほど意識しないとしっかり噛んで食べることができない。肥満を予防できるかどうかは、子供時代のしつけにかかっているといえるだろう


歯周病心筋梗塞を引き起こす

テレビのコマーシャルなどで、歯周病菌連鎖という言葉を聞いたことがあるかもしれない。

歯周病菌が口を飛び出して全身に広がり、心疾患、動脈硬化、感染性心内膜炎、細菌性肺炎慢性開塞性肺疾患、低体重時早産、高脂血症、関節リュウマチなどの病気の原因になっているというのである。

歯周病は国の中の疾患であるが、昔から歯周病と全身疾患は関係あるのではないか、という考え方があったようだ。

時代は下り一九〇〇年初頭のこと、当時の医者はリュウマチや肺炎などが起きる原因についてよくわかっていなかった。回の中の細菌というものの存在をいまいち確認できていなかったため、原因追究の方法がよくわからなかったのである。

そこで、多くの研究者や医師が数多くの研究を行なっていた。

その中で、フィ一Zアルフィアの細菌学者W.D・ミラー博士とロンドンの医師、W・ハンター氏が、日の中にいる細菌の感染が全身疾患を引き起こす主な原因であると論文や講演で発表した

ミラー博士は「感染源としてのヒトの日腔」と題した論文で、日の中の細菌によって骨炎、骨髄炎、敗血症、膿血症、ジフテリア結核、梅毒など様々な病気を引き起こすと論じた。

日は人間にとって間のようなものなので、いいものも入ってくるが悪い細菌も入り、日腔感染が全身疾患を引き起こす元凶であるというものである。

この考え方が急速に広まっていくしその後多くの学者が、日の中の細菌感染と病気について研究を行ない、より具体的に歯周病菌の脅威が明らかになっていった。

中でも注目は、 一九八九年にフィンランドのK・マイラ博士が発表した「歯周病と急性心筋梗塞の関係」について研究した論文である。

この研究では、心筋梗塞の既往のある患者と、同じ地域に住んでいる一般人を対象に比較対照試験を行ない、その結果をまとめているすべての被験者に歯科検診を行なって、虫歯の有無、失っている歯の数、プラーク、歯周ポケットの深さ、歯肉の炎症の有無のスコアを合計した。

結果を見ると、なんと歯の状態がよくない人の急性心筋梗塞発症リスクが、歯周病と大いに関係があるということがわかったというのである。

心筋梗塞の発症リスクに関しては、多くの要因がかかわっている。この比較試験では、その他の要因に関しても調査しているc

心臓発作のリスクファクターといわれる、年齢、総コレステロール、LDL(悪玉コレステロール)、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙の値もしっかり調査し、データの解析を行なったが、これらのリスクファクターとは無関係だったという。

この研究からわかったのは、歯周病患者は、 一般の人に比べて三割程度高い割合で心筋梗塞の発作を起こすということし三割といえば、偶然にすませられる割合ではなく、何らかの関連性が疑われてしかるべき数値である。

これらマイラ博十の研究から、歯周病の人は、心筋梗宋のリスクが高いということが実証されたのである。

歯や回の中に何らかのトラブルや疾患を抱えている人は心筋梗塞の発作を起こしやすいといわれると、ドキッとする人もいるのではないだろうか。

ライオンは歯が抜けると死ぬ


歯の形にはそれぞれ意味があり、機能が決まっている

肉食獣のライオンの歯を見てみると、ほとんど鋭い牙のような歯である。

門歯(前歯)は小さい歯が上に四本、下に五本生えている。日につくのは大きくて鋭い大歯で、その後ろにもとんがった四、五本の歯が生えている。人間のような平べったい自歯はない。

つまり、穀物や野菜などのような、すりつぶさないと消化しにくい食物は食べないということだ。

ライオンの牙は人間で言えば、ほとんどの歯が大歯であるということである。歯の構造からも、草食動物の生肉のみを食べる食生活をしていることがはっきりわかる。

仮にライオンの歯が虫歯や歯周病で無くなってしまったらどうなるでしょうか?

人間なら、歯が無くても栄養を摂れる流動食や胃瘻で対応できます。そらすら難しい場合は点滴という手もあります。

しかし、ライオンはそうはいきません。動物園で大事に扱われているライオンであれば獣医がオートミールのような懸命な処置を施すようですが、それでも生存は難しいようです。

なぜならば、ライオンはオートミールを消化する酵素を体内に持っていないので、摂取してもエネルギーは作り出せないのだ。

ここで、疑間が出てくる。

ライオンは卓食動物を主食としているが、ビタミンやミネラル、エネルギー代謝の基本となる炭水化物を摂っていないのに、どうして健康を保てるのだろうか

たとえば、血液中にあって酸素を運ぶ働きをするヘモグロビンという物質がある。ヘモグロビンは、植物を原料として作られている.ヘモグロビンと植物の葉緑素は化学構造が似ていて、葉緑素は体内に入ると血色素になる。

野菜や果物を食べないライオンにも、 ヘモグロビンは体内にあるcそれでは、どうやって原料を調達しているのだろうか

栄養学者の川島四郎先生の研究によると、ライオンは草食動物を襲うと、まず小腸から食べ始めるというし草食動物の小腸では、食べた草が消化されてほぼ溶けており、吸収されるばかりの段階になっている。

ライオンはこれを食べることで、間接的に野菜を食べたことになり、ビタミンやミネラルを摂取することができるというのだ。野菜の消化酵素はなくても、吸収しやすい状態になっていれば問題なく必要な栄養分は摂取できる。

しかし、それも鋭い牙がしっかりあればこそ。

もし、歯が抜けてしまったり、あるいはまったく歯がなかったら、シマウマの首にくらいついて相手を倒すことも、生肉を引き裂いて食べることもできない

歯が抜けて食物を捕獲できなくなった動物は、死を待つしかない。これが自然界の掟である

●奥歯の抜けたサルはボケる

アメリカの心理学者メラビアン教授の研究によると、人の第一印象を決めるのは「服装や表情を含めた外見」が五二%で、 一番多いという結果になった。

言われてみればその通りである。初対面で誰かに会うと、印象に残るのは洋服だったり、メガネだったり、髪型だったりで、話の内容を思い出そうにも思い出せないことが多い。

外見ということでは、コメディアンの扮装として、前歯の一本を黒く塗って、 一見すると歯が抜けているように見せるものがある。

前歯が一本でも抜けていると、妙に目につく。顔にしまりがなくなり、なんとも抜けた印象になる。これが、コメディアンにとっての狙いで、どんなしぐさをしてもおかしく見える。

しかし、奥歯が抜けたらどうだろうか。

大口を開けて笑う人なら問題があるかもしれないが、普通は奥歯が抜けていても周囲は気づかない。奥歯は見た目には関係がないから、放置される傾向が強い.他の歯で代用できると思っているかもしれないが、奥歯の抜けた穴は想像以上に大きい。

かなり前のことだが、サルを使った面白い実験について、その結果を聞いたことがある

奥歯のあるサルとないサルを比べて、学習能力に差があるかどうかを調べる実験だった。サルを二組に分ける。 一方は奥歯でしっかリモノが食べられる群で、もう一方は奥歯が抜けて前歯だけで食べる群である。

実験はモノを食べさせながら学習をさせた

〇、△、□と赤、青、黄色の色の組み合わせで、Oの赤色は何も出てこず□の黄色のボタンを押すとバナナチップスが出てきて食べることができる。

△の青のボタンを押すと、レーズンがでてくるという設定で行なう実験である。結果は、サルが大好きなバナナチップスを取れるのは、きまって奥歯がしっかりあるサルで、奥歯のないサルは学習効果があきらかに低下した


生活態度を観察しても、奥歯のないサルはおとなしく、じっとしていて元気がなく運動能力が落ちてくる。 一方奥歯がしっかりあるサルは、 一時もじっとしておらず走り回ったり、噛み付いたりと元気いっぱいである。

たかが奥歯が抜けただけなのに、この差はどこから来るのだろう。

●脳の血流で唾液が増える

サルの実験結果が、そのまま人間に当てはまるものではない。

人間における奥歯と脳の働きの関係を調べるために、別の方法で調査した。奥歯のある人とない人に同じ食事をしてもらい、サーモグラフィーを使い顔の温度上昇に差が出るかどうかを調べたという。

結果は一目瞭然で、奥歯のある人は顔の温度が上がったのに対して、奥歯のない人の温度はほとんど上がらなかった。顔の温度が上がったということは、血液が顔や頭に集まってきたということである。

どうしてこのような差が出たのだろうか。

口の中には舌がある。舌の表面には味膏があり、甘い、辛い、昔い、塩っ辛い、すっぱいという五味を感じている。中でも、すっばさを感じる味雷は舌の脇の奥にあり、ここが刺激されると、唾液が大量に出てくる。

また奥歯のある人は食べ物を舌で器用に奥歯の上に載せて、しっかりとすりつぶしている。

そのとき、味膏が刺激され、唾液が大量に出る。奥歯のない人は、味曹をうまく刺激できないので唾液の量が少ない.

奥歯の中でも特に六番の第一大臼歯で噛むと、唾液が大量に出る。この歯で噛むことで圧力を感じ、そのシグナルが脳に伝わり、自律神経系の副交感神経を刺激して唾液が出るようになっているからである。

しかも、食事をすると心臓から出た血液が頸動脈を通って頭に集まり、そのとき分泌された血液の水分が濃縮されて、必要に応じて唾液となってどっと出る。奥歯でしっかり噛んで唾液が豊富に出ていると、唾液の原料となる新鮮な血液が脳に向かって大量に流れ込むので、顔の温度が高くなるというゎけでぁる。

顔の温度が上がるだけではない。

脳に新鮮な血液が大量に集まり、栄養分と新鮮な酸素を運ぶので、脳の機能も活性化される。これが、サルの学習効果の差になったわけである。

奥歯でしっかり噛めないだけで、脳の働きが低下するということがおゎかりいただけただろうか。

代用がきかない歯の機能


口腔内はけっして広い空間ではない。

こんな小さな空間に、舌があり、上下の歯が生えていて、しかも三度の食事と会話の両方の機能をはたしている。眠っているとき以外、日の中は休みなく働いているといっていいだろう。

三二本の永久歯で機能を分担するはずが、成人では完全に残っている人は本当に少ない。

虫歯の治療で抜いて差し歯やブリッジが施されていたり、中には抜けた歯の場所が、そのまま地上げの失敗のような虫食い空き地になっているという人もいる。抜けたまま空き地のようになっているからといって、本人はそれほど不自由を感じていないことが多い。

人間の体はとてもうまくできていて、代用しようと無意識に他の器官が努力するため、それほど困らないからだ。

しかしこの考え方が、すべての歯をダメにする元凶である

歯が一本一本形も機能も違うのは、回の中全部で一つの器官になっているからである

右の奥歯が一本抜けたら、左で代用すればいいというほど簡単なものではない。普通に食事をしたり、話をするには何本か歯が抜けていても本人は不自由も感じないかもしれないが、こと機能面からみると重大な危機をはらんでいる。

たとえば下の六番の第一大臼歯だが、これは他の歯に比べて表面積が大きい。表面積が大きいということは噛む面積も大きいということになる。

実はこの歯は、噛むための筋肉である側頭筋及び咬筋の真下に生えている。つまり、何か噛もうとすると咀疇筋が働き、上下から強い力が第一大臼歯にかかる.第一大臼歯はこうした噛む圧力に耐えるために、歯の表面積が大きいだけでなく、歯の根もしっかり足を踏ん張り骨に根を下ろし、ちょっとやそっとのことではぐらつかずに支える構造になっている。

もし、この歯を抜いてしまったらどうなるだろうか。

従来の治療では、第一大臼歯を抜くと前後の歯にブリッジをする。前後の歯で支えることで、しっかり噛めるようにするだけでなく、噛む圧力を分散するという考えに基づく治療である。

しかし時間が経つにつれ、本来下の第一大自歯にかかっていた強い噛む圧力を、前の五番の第二小日歯と後ろの七番の第二人臼歯が引き受けることになる。なにしろ上下の咀噌筋の圧力がダイレクトにかかる部分である。あまりの強い圧力のために、残った両隣りの下の五番と七番が悲鳴を上げ始める。

両隣りの五番と七番の歯は、第一大臼歯に比べ丈夫な根を持っていないので、踏ん張ることができずに強い力で噛むことができない。

しかし、上下から強い咬合の圧力がかかってくる^)こうして長い間の過重負担に歯が耐えられなくなり、最後には、ブリッジで支えていた二本の歯もダメになるということが現実に起こる

仮に、下の六番の第一大臼歯とその後ろの七番の第二大臼歯を抜いてしまい、そのまま治療せずに放置しておいたとしよう。この場合は、どうなるか。

なんと抜けた歯に対応していた、上の六番と七番の歯が伸びてくる。対応する相手がいないので噛む圧力がかからず、歯が伸びてくる。これを挺出というのこれは逆の歯にもいえるので、上の六番、七番の歯が抜けると対応する下の歯が挺出する。

挺出する歯は歯槽骨とともに、対向する顎堤に向かって伸び、しまいには、上の顎堤に到達して止まるのつまり下の歯を放置しているだけで、健康な上の歯もダメになってしまうのである。

このように歯はそれ自体が健康だとしても、隣りの歯や対向する歯の影響を受けて抜け落ちてしまう危険性が大きい。どれほど、歯同士が支えあい、影響しあって、 一つの機能を果たしているかがわかっていただけると思う。

職場を考えてみるとわかりやすい。 一人が産体を取ると、五人で分担していた仕事を四人でやることになる。ある日、一人が風邪をひいて休んだので二人で仕事を分担することになった。最初はなんとかやっていけるが、長期間になると二人では必ず疲れてしまう。

それと同じで、 一本でも歯が抜けると、その歯の働きをする歯が疲れてしまい、最後は代用してい歯の数が減れば減るほど、他の歯がダメになるスピードが速くなるのはそのせいである。

このようにして、 一本抜いただけで、歯全体が壊れてくる負の連鎖が始まるのである。

この話を単なる脅しだと思っている人がいたら、それは認識不足である。もちろん、今日明日に歯が抜けるというのではない。ゆっくりとしたスピードで、しかし確実に歯が弱くなって、あるロポロッと抜けるのである。

最初の歯が抜けてからあまりに時間が経っているために、それが原因とは気づかない。この忘却と油断が歯をダメにするのだ。

 


●犬歯が抜けると奥歯がなくなる不思議

昔の日本人はそれほど八重歯を気にする人はいなかった。八重歯というのは、大歯(糸切り歯)が正常な位置よりも前にずれて生えている歯列異常である.欧米人は八重歯があるとすぐ歯列矯正をするが、日本人が気にするようになったのは最近である。

糸切り歯は、文字どおり裁縫などの際に、糸を引っ掛けて切ることに使う。食物を切り裂くという本来の機能を応用して糸も切ったところから、こういわれるようになったのだろう。

犬歯は、外に見える歯の部分は他と大差ないのだが、注目は根の長さだ。

日本人の平均で二四ミリから二七ミリあり、他の歯に比べてものすごく長い。表に見えている歯よりも二倍近く長い。この長い根は、土の中に打ち込んだ棒くいと同じ働きをする。

犬歯の主な働きは、するめビーフジャーキーなど硬い食べ物を引きちぎって噛み切るときに、骨の中に根を長く埋め込むことで、噛み切るために歯を横に動かしても容易に動かないようになっている。

太古の人間は、現代のように火を通した柔らかい食べ物が少ないので、木の皮や動物の肉など硬いものを食べていた.今よりもずっと、大歯の活躍する機会が多かったにちがいない。

硬いものを引きちぎるようにして食べるため、犬歯は横に引っ張る力に対して強い。

というよりも、横に引っ張る力に強くなければ、すぐにダメになる。そのために、根を骨にしっかり食い込ませ、横揺れに耐える構造になった。

ところで、人間の大歯は上に二本、下に二本の合計日本ある。犬歯同十は右の上下、左の上下の二組あり、上下がピッタリ合うように生えている

食べ物を引きちぎる場合、下の大歯が上の大歯の一異側を横にすべるようにして動く

実はこのとき、奥歯に隙間ができるような構造になっている。右側で噛もうとすると、左側の奥歯に隙間が空き、左側で噛もうとすると右側の奥歯に隙間ができる。

隙間があることで、その間歯は機能しないで休ませることができる。左で噛んでいるときには右が休み、右で噛んでいるときには左を体ませるようになるという、きわめて合理的な構造になっている

それだけではない。前歯で噛むときには、奥歯を休ませ、奥歯で噛むときには前歯を休ませている。

つまり、機能している歯だけを使い、それ以外の歯を体ませている。こうすることで歯を守っているのだ

このような分担の仕組みは、上下の大歯同士が接することによって可能になっている。

もし犬歯がなくなったら、四六時中すべての歯ががっちり噛み合うことになり、歯が磨耗してしまうだろう。使わなくてもいい歯まで、常に使っていたら壊れやすくなるのは当たり前のことである。

犬歯が前歯と奥歯を繋ぐ位置にあるのは、歯を動かす支点という意味がある。

支点がなかったら、支えるバランスが崩れて上下の歯がガチンコ勝負になり、過重負担で歯が壊れてくる。犬歯を一本でも失うと、しばらくして奥歯が抜けるのはこういうわけなのだ。

●ホラー映画のように連続して歯が抜ける
一本の歯が抜けただけなのに、まさか他の歯がダメになるなんて信じられないと思うかもしれない。

しかし、 薫肋の水滴が岩を穿つ事例を見るまでもなく、時間と圧力が継続してかかることで、他の歯にも影響が出てくる。

たとえば、奥歯が抜けてしばらくすると前歯もダメになってしまうという事実がある。

奥歯と前歯は接していないのに、影響が出るのはおかしいと思うかもしれない。

奥歯欠損によって前歯が抜ける仕組みを説明しよう。

歯はすべての歯牙で支えあって、 一つの機能を営んでいる。下顎の右臼歯が抜けたとすると、当然右上に歯が残っていても右側では噛めない。

すると、本側の自歯で咀疇して左側の上下に咬合力が集中する。すると、いつかは左側の自歯は働きすぎて抜歯する時を迎える

次第に上下の前歯で咀疇するようになるが、前の歯だけで噛むようになり咬合が集中する。

下顎の前歯はやや前方に倒れるように傾いているためL顎の前歯は下顎前歯に被さる形になっており、咬合するための咬合力は下顎前歯がL顎の前歯を突き上げる形のベクトルが集中する

下の歯が上の歯を突き上げるのを止めていたのは、実は奥歯の存在だったのだ。

ストッパーである奥歯がなくなるために、下の歯が上の歯を突き上げた結果、上の前歯は徐々に隣りの歯との隙間を窄けながら前の方に出てくる。そして、突き上げが激しすぎたり、長い時間突き上げられているために最終的には上の前歯が抜けてしまう

上の前歯が抜けると奥歯で噛めなくなるだけではなく、上の歯が使えないので前歯でも噛めない。自分の歯が残っていても、総義歯とおなじように自分の歯では噛めなくなってしまうことが起こる。

このままでは困るので、歯のないところに入れ歯を入れる処置をする。その場合、残っている自分の歯に爪のような装置をつけて、入れ歯を維持することになる。

入れ歯は上下に入れる。この場合には、噛む力は入れ歯に集中するために、入れ歯を支えている爪が取り付けられている自分の歯に応力(咬合力)が集中することになる。

噛む力が恒常的にかかるのだから耐え切れなくなり、残っている歯も結局は抜けてしまう。自分の歯牙に入れ歯を負担させて咬合を作ることは、ひじょうに難しい技術である。自分の歯が耐え切れなくなり、最終的には歯が抜けるのである。

つまり、歯の数が少なくなればなるほど、残っている歯に咬合力が集中するので歯を失ってしまう。

こうして、奥歯が抜けただけなのに、前歯まで失ってしまうという不幸に見舞われる。これは悪い冗談でも、ホラー映画でもない。実際に回の中では、こうした恐ろしい連鎖が起こっているのだ。

 

永久歯三二本には理由がある

人間の永久歯の総数は親知らずを含め32本の歯といわれるが、最近は親知らずが生える前に抜いたり、生えてこなかったりする人もいるので二八本や三0本という人も多い。

歯のレントゲン写真を見ると、下顎と上顎に歯がきれいに揃って生えており、前歯を中心に左右対称になっている。

上顎の歯は一六本で、二本ある中切歯の中心から右側に八本、左側に八本ある。

ここで注意してほしいのは、表に見えている歯の形や、歯肉の下で普段は見えない根の形などが一本ずつみな違っていることだ。

前歯から見ていこう.

口を開くと目に付く前中央の二木の歯は、中切歯というっ歯科では歯に番号を振って表わすのだが、これが一番にあたる。

中切歯の隣りが、側切歯で、これが二番である

一番と二番をあわせて門歯とも呼ばれている。

二番目が犬歯で、 一番から二番までが物を噛み切るのに適した形になっている。

犬歯の隣りの二本が、小臼歯で四番と五番である。

六番が歯の中で一番大きい歯で第一大臼歯である

七番は第二大臼歯で、親知らずが八番の第二大臼歯となっている。

この八本がワンセットで、同じセットが上下左右四つあるので合計三二本になる。

門歯といわれる一番と二番の歯は食物を噛み切るのに適した形をしている。

糸切り歯といわれる大歯は、噛み切ったり引きちぎったりする機能がある.ビーフジャーキーなどの硬いものを引きちぎって食べるには二番の大歯が活躍する

四番、五番の小臼歯と六番、七番、八番の大臼歯を合わせて、食物をすりつぶすのに適した形になっている。

食物に応じて使う歯が違うので、それぞれの役割に応じてうまく歯を使い分けている。

しかも、噛むだけでなく、唾液を混ぜて炭水化物の消化を助けるなど、多様な働きをしているために、どの歯が欠けてもうまく咀囀できない

ゴルフをするのに、ドライバーがあるからアイアンは必要ないという人はいないだろう。それと同じで、機能の違う歯が必要に応じて働いている。

ゴルフクラブと違うのは、クラブは一本ずつ使用するが、歯はワンセットで使用するため、バラバラでは本来の機能を果たさないということ

つまり、 一本でも抜けてしまったら機能に不具合が出るのは当然である。

歯の構造では、自く見えている部分は歯の二、四割で、残りの六、七割は歯肉と骨に埋まっている。

見えている白い部分だけが歯だと思っている人が多いが、大半は歯肉の中にあり、それが歯をしっかりと支えている。そして歯は心身の健全な働きをも、支えているのである。

実は歯によって、命のサイクルができ上がっている。

心臓から出た血液が、顎の骨の中を通る血管を通して歯の中に入ってくる

歯の中には小さな空間があり、この中に神経、動脈、静脈が通っており、動脈は栄養分や酸素を運び、使い終わったものは静脈を通じて戻す。

すべての歯の中で、この命のサイクルが繰り返され、それがめぐりめぐって体を支えている。まるで一つの宇宙のように。

このサイクルを三二本の歯が担っているのである。

●歯から見た理想的な食事

歯の形と本数をみれば、人間に適した食生活が類推できる

まず歯の数である。

門歯は上下で八本あり、これは野菜や呆物を噛みちぎるためにある。それに大歯が四本あり、合わせて一二本になる。これが肉や魚など噛み切る必要がある食べ物用である。

小臼歯、大臼歯は合わせて20本(親知らず含む)あるので、これで穀物や野菜などをすりつぶして食べるために使う。

これを食物に当てはめると、肉や魚よりも当然穀物や野菜の量を多くしたほうがよいことがわかるだろう。

歯の数から類推すると、野菜や果物用の前歯二本、肉を噛み切るための大歯一本、米や穀物を砕く臼歯五本を合わせて食べるのが、人間にとって理想的な食事なのだといかる

肉や魚は美味しいので、つい食べすぎてしまうが、歯から考えると少し控えめにして、穀類や野菜などをたっぷり摂ったほうがいいといぅことになる。

穀類ゃ野菜を体の求めに応じてしっかり食べていれば、脂肪分を必要以上に摂ることもなくなり、肥満やそれに起因する

生活習慣病とは無縁でいられるだろう

近年食生活の洋風化によって脂肪分を摂りすぎるために、高コレステロール高血糖、高尿酸などから生活習慣病を招いている。

日本人が本来食べていたような、米と野菜といった脂肪分の少ない食物をたっぷり食べる食生活をすれば、少なくとも生活習慣病が予防できることになる。

緑黄色野菜をたっぷり食べる人の血液は、サラサラなのに対して、肉食偏食の人の血液は暗褐色のドロドロで、しかも血流も悪いと言われるのだからなおさらだ

生物は歯に応じて食品をバランスよく食べることによって、生命の維持が効果的に行なわれている。

すべての生物が、進化によって完成した歯で自然の摂理のままに食物を摂取している。

これがまた、歯にとっての理想の食事だということを再確認する必要がある。

ノーカーボン・ダイエットといって、炭水化物を徹底的にカットするダイエット方法がアメリカから輸入されている。

しかし歯からすると人間は、ごはん、バン、麺など穀物を食べるように進化しているのに、それをまつたくカットしてしまうというバランスを欠いた食事は自然の摂理に反することでもある。

牛の場合は、前歯四本で草を食いちぎり、四本の奥歯ですりつぶすような機能を優先させた歯になっている。つまり草を消化吸収するのに都合がいいような歯の構造なのだ。草を食べるような歯は、肉を食べるようにはできていない。

本来草を食べるような歯しか持っていない牛に対して、肉骨粉を食べさせたから妙な病気が発生したといえるのではないだろうか。

歯と食物の相関関係は、進化の過程でそうなったのだから、理屈ではない。

長い年月をかけて進化してきた生物が獲得した歯の形には、深い意味があるのだ。

歯科医になって実感するのは、人間を含めた生物の身体は無駄なところは一つもなく、本当に機能的にできているということだ。

だからこそ、歯の摂理に応じた食事をしなければならないし、また効果的に機能させるために一本たりとも抜いてはいけない。

格差社会で歯を守る方法


戦後日本は、超大国アメリカに憧れ、アメリカに追いつけ追い越せと、がむしゃらに頑張ってきた。おかげで驚異的ともいえる経済発展を遂げ、先進国の仲間入りを果たした

その憧れのアメリカは格差社会で貧富の差が激しい.途方もない大金持ちがいるかと思えば、年収二〇0万円以下の低所得層も圧倒的に多く、医療保険制度も整っていないために満足に医者にもかかれない人たちもいる。

日本は小泉政権の五年で格差社会が生じたと言われるが、医療の保険制度に関してはアメリカよりもはるかに進んでおり、ほぼ国民皆保険の状況だ。ところが、八〇歳で、自分の歯が残っている本数は、日本よりもアメリカのほうが多いのである

この理由を推察するエピソードがあります

ニューョーク・ブルックリン地区の歯科医に最先端の技術で歯の治療を受けているお金持ちと、アイダホ州の無医村の人々の二0年後の歯の数を比べてみたという結果が報告されている。

ニューヨークの歯科医は、虫歯になったら麻酔をして歯を削り、充填し、時には神経を掃除して治療し歯冠修復をする。抜けたらブリッジや入れ歯などの治療をI寧に行なうという具合で、お金持ちはすぐに最先端の治療を受けることができる。

一方アイダホの無医村の住民は、歯が痛くなってもすぐに歯医者の治療は受けられない。

飛行機に乗って遠くの町まで出かけなければ、歯科診療を受けることができない.そこで、その地区全体では徹底して歯ブラシによる予防の指導を受け、やむを得ずひたすら歯磨きをして虫歯や歯周病にならないように予防に努めていた。

朝、昼、夜、寝る前と、気がつけばいつも歯ブラシを握っているc医療費をかけないで、できる限り自分で予防してきた。さて、20年後はどうなったか

当然、ニューヨークのお金持ちのほうが自分の歯が残っていると思うに違いない。しかし実際には、アイダホの無医村の人々のほうが歯が残っていた。

最先端の治療を、自分の望んだ時間に受けることができるのに、どういうわけだろう

ニューヨークの歯科医の治療技術は問題なく最高水準だったが、歯科医は機能を回復させているのであって、歯が悪くなるのを予防していたわけではない。

一方無医村の人々は、歯が悪くならないようにとにかく歯を磨いた。治療が受けられないハンディキャップを予防で補ったのだ。

現在の歯科医院では治療も予防も行なわれているが、調査当時は修復治療が中心で、予防はそれほど行なわれていなかったのだ。その結果、歯科診療においては、名医にかかれば歯が持つ、という迷信が生まれた。しかし、実際はその逆であることが実証されている。

格差社会では、お金と時間とチャンスとサービスなど、人生の全般で差が出る。しかし、予防という努力があれば、歯科診療に関してはその格差を是正することができる。しつこく磨く時間が長ければ長いほど、歯は残るのである。

●デンタルIQが低い日本人

北欧にフィンランドという国がある。

森と湖が数多く点在し、長く厳しい冬にはサウナで体の芯まで温まったあとで氷の張った湖にザブンと飛び込む光景が見られる。

国土の大きさは日本と同じくらいだが、人口はわずか五〇〇万人。日本は約一億三〇〇〇万人なので三〇分の一である。広大な大地に豊かな森林が広がり、わずかな平地に人間がポツンポツンと住んでいる国といったらイメージが湧くだろうか。

人口が少ないフィンランドにとって、人間は最大の資源である。 一人も欠けることなく立派に成人して、しっかり働いて税金を納めてもらわなくては国が成り立たない。

だから子供には徹底して教育を施すc 一人の落ちこばれもないように、小学生からつきっきりで勉強を教える.オリジナルでフィンランド教育メソッドを作り、年齢や教科にかかわらず、「自分の言いたいことをいかに伝えるか」を徹底的に教育する

グローバル社会を生き抜くために、自分の意見を論理的に言葉で表現する訓練を受けるのだ。

こうした教育の成果が実を結び、国際的な学習到達度調査「PISA」の読解力試験の第一回(20000年)、第二回(2003年)と、連続で世界一に輝いた。

このテストで日本の成績は八位と、 一四位に止まっている。

もう一つ、フィンランドが取り組んでいるのが「歯」に対するケアである。

国民の健康のために、絶対に歯を抜かないようにして、健康増進をはかろうと国を挙げて対策を行なってきた。

このためフィンランドでは、 一九七五年から徹底した予防歯科対策を実施している。

特に子供は虫歯になりやすいので、幼稚園と小学校ではフッ素による国腔洗浄を行ない、保健所でフッ素化合物を無料で配る。子供たちは定期的に歯医者に通い、専門家に歯を磨いてもらっている。もちろん、保険診療で無料である。

歯にいいと言われるキシリトールフィンランドで発見された。

日本でも「虫歯予防にキシリトールガム」というコマーシャルでお馴染みだが、フィンランドでは一九七五年にキシリトールガムが発売されている。このように「フッ素とキシリトール」という徹底したダブルの予防歯科対策で虫歯が激減した。

統計にもはっきり現われている。

一九七五年のフィンランドの虫歯の平均本数は六・九本で、日本の五・六本より多かった。

スタート時には、フィンランドの国民は日本人と同じ程度の歯に対する認識しかなかったのである。

ところが、七八年に虫歯の本数は同数になり、九一年には一・二本と激減した。現在は一本を切っている。

九二年の統計だが、日本人の虫歯は平均三・六本である。この二〇年の間に、虫歯で歯を抜くフィンランド人は皆無といっていい状態になり、日本人は未だに虫歯で歯を抜く人が三割もいるというのが現状である。

国を挙げての予防歯科が功を奏して、大人の歯もしっかり残っている。

フィンランド人は八0歳でも、自分の歯が一九本も残っている。永久歯二八本(親知らずを除いた本数)のうち、 一九本も残っているということは、抜いたのがわずか九本で、大半が自分の歯だということである

自分の歯で好きなものを美味しく食べられるので、高齢者も元気である。

年を取ると歯が抜けるものだと思うのは、日本人にとって常識であっても、フィンランド人にとっては非常識であることがおわかりいただけただろう

日本国内には、平成二二年四月の統計で、六万八一六七施設の歯科診療所がある。これには小児歯科、矯正歯科、審美歯科も含まれるが、けっして少ない数ではない。

日本人は治療のために歯科に行く。虫歯や歯周病治療、あるいは歯をクリーニングする審美治療や、歯列矯正などで歯科に通っている。

一方フィンランド人は、予防のために歯科へ行くのであって、治療に行くわけではない

日本人の多くは、歯の治療は痛いからできるだけ先延ばしにしたいと考えるようだ。あのドリルの音を聞くと鳥肌が立つので、できれば全身麻酔で治療してほしいと真顔で言う

大の大人の、しかも分別もある男性が言うのだから、困ったものだ。

しっかり予防すれば虫歯にも歯周病にもならないので、痛い治療は必要ない。

それをしっかり理解しておけば、歯科医は怖くないし、もしかするとこれほど多くの歯科医は必要ないかもしれない。

食事をしたら歯を磨く。歯を一本一本丁寧に磨くことで、虫歯や歯周病の原因菌を取り除く。

これを毎日やってさぇいれば、歯の治療など一切必要なくなる。

こんな簡単なことが実践できずに、相変わらず日本人の歯は失われている。

治療より予防、そのための歯磨きという、いたってシンプルな法則が身についていない日本人は、世界的に見てデンタルーQが低いといわれても仕方がないだろう。